けものがゆく道のむこう

いいにおいがする方へ かすかな気配をたどる道

亡霊シリーズ

亡霊が消えてゆく。 ゆるされたいと思うことをやめたときから亡霊の影は薄い。 ゆるされるかどうかは問題ではない。 それは私の意思でどうにかできることではない。 私と私の近くにいる人々の生死に直結しないならば、恨まれ、憎まれ、生きればよい。ゆるさ…

宇宙のどこかにいるかもしれない生命体に宛てた電気信号みたいに、誰に目撃されるわけでもない言葉を紡ぎ続ける。 本当は言葉を届けたい相手の名前を知っているのに、宛名にその名を記すことができない臆病者だ。 既読がついたかどうかなんて知りようがない…

わたしにとってあなたが これほど大きな存在であるわけは あなたが はじめて わたしの姿をとらえてくれたひとだからだ。あなたがわたしをみつけてくれるまで わたしはとうめいで わたしは自分のかたちをしらず わたしはそこにいなかった。あなたはわたしにこ…

封筒とメモ

彼の夢を見た日は、感傷的な気分ではじまる。 ほんとうは因果関係は逆で、疲れて感傷的になっているから彼の夢を見るのだと思う。記憶のほころびから漏れ出した感情の断片が、ありもしなかった物語を紡いで映し出していく。封筒が届き、中から彼のメモが出て…

ひとつのなかのふたつでひとつ

私があなたになったのか、あなたが私になったのか。

瞳をくりぬいて

あなたの瞳を私の視神経につなぎ、あなたの視野を手に入れたい。ちがう。私が手に入れたいのは、あなたの思考。 あなたの脳みそに並列化したい衝動をどうにかしなければ、 この焦りはずっとくすぶったまま。 私はずっと狂ったまま。

記憶のフィルター

ある楽曲を、彼の遺物としてではなく、”楽曲そのもの”として聴きたいとおもう。 10年前に少年が教えてくれたその音楽は、いまも彼というフィルターを通してしか私に届かない。少年を心底尊敬するから、彼が「よい」と言ったものを「よい」と思い込もうとして…

記憶の上書き保存

意識的に、あるいは無意識的に、記憶は上書きされ続けて、あったこと、と、なかったこと、の境目が曖昧になる。だから、あの瞬間の映像や音声を映画のように再生したとして、 私の都合のいいように捻じ曲げられてしまった再現映像はもう真実とはいえない。 …

概念のような、あなた

電話を使って音声だけの対話続けていたら、あなたの顔を思い出せなくなった。 声を聴いても、電話の向こうにいるその人が確かにあなたであると断言できない。 会話を始めるときにはいつも、相手の言葉を注意深く観察して、記憶に残るあなたの印象と齟齬がな…

きっと、それだけだった

「さようなら、私はこちらの道をゆく」きっと、それだけのことだった さようなら私はこちらの道をゆく

亡霊と記憶

ちょっと見かけた長田弘氏の文章が気になって、引用本の『感受性の領分』をじっくり読んでみたい気になった。残念ながら大学の図書館にはなく、ならば買おうと検索したら、どれも中古品の取り扱いだった。あらまぁ。市立図書館に行くか、中古で買うか。どう…

亡霊の不在

けものみちを歩きはじめると、亡霊が見えなくなる。亡霊なんか見えなくたって生きていけるのだということを、私は経験として知っている。 それなのに、心が弱るとどうしても亡霊を目で追ってしまう。どうして私は余計なものを見たがるのだろう。 亡霊を見れ…

手の使い方

行動は思考の停止、であるならば、思考は行動の停止、にもなるだろうか? 駆動パーツを切り離し、構成物質をどろどろに溶かして組み上げ直す作業を延々続けていても、できあがるのはやっぱり同じ。現実には一歩もその場を動いていない。溶かす前も後も成分は…

亡霊と共に生きる毎日

みんなに置いて行かれた孤独な記憶の残渣から 寂しげにしかし小気味よく滴るしずくのひとかけらを掬いあげ覗きこむと あら不思議それはあなたの不義理を非難する架空の請求書に繋がっていた 封筒に押された消印は三ヵ月前

亡霊がきえるまで

亡霊が現れる。 相変わらず綺麗な白い肌をして、うつむき加減に細めた目でここではないどこかを見ている。きっとまた、広大な言葉の海で溺れたふりをして遊んでいるのだろう。ことばを拾っては並べ、眺めてはひっくり返し、裏返して覗きこむ。そうやって、精…