けものがゆく道のむこう

いいにおいがする方へ かすかな気配をたどる道

亡霊の不在

けものみちを歩きはじめると、亡霊が見えなくなる。

亡霊なんか見えなくたって生きていけるのだということを、私は経験として知っている。
それなのに、心が弱るとどうしても亡霊を目で追ってしまう。どうして私は余計なものを見たがるのだろう。
亡霊を見れば足が止まる。歩みを止めれば過去に飲み込まれてしまうのだし、現在に置いてきぼりにされてしまう。それは困る。

けものみちに足を踏み入れる。
ざくざくと歩を進めるにつれて、全身の感覚器は声を聴くことを中断して、外の気配に焦点を合わせていく。
そこには生きているものたちの気配が強くある。世界の色が違ってみえる。
私の眼に埋めこまれた勤勉なフィルターは、動きを止めた。