封筒とメモ
彼の夢を見た日は、感傷的な気分ではじまる。
ほんとうは因果関係は逆で、疲れて感傷的になっているから彼の夢を見るのだと思う。
記憶のほころびから漏れ出した感情の断片が、ありもしなかった物語を紡いで映し出していく。
封筒が届き、中から彼のメモが出てきた。
筆跡は独特で、左に流れる爪でひっかいたようなかたちをしている。
そこに書かれていたのは、最後まで私に伝えられなかった言葉のようだった。
ようだった、というのは、私はその文字列をたしかに見たのに、どうしても読み解くことができなかったからだ。
封筒の穴がついに閉じられ、あの日こぼれ落ちた言葉が私のもとに届いたのかもしれなかった。
けれど、もはや私には彼の言葉を取り込むことができない。
それはひどく悲しいことだった。
しかしそれは同時に、私がようやく彼の言葉の引力圏にとらわれない場所に来たということかもしれなかった。