けものがゆく道のむこう

いいにおいがする方へ かすかな気配をたどる道

電話をとる。ハキハキとした大きな声で名前を確認されて、耳に圧力を感じる。電話の向こうにいる知らない人に耳から侵略されているような気持ちになる。

事務的な会話を続ける。定型文が流れ込んでくる。その丁寧な言葉遣いを反芻しながら、私は私のかすかな動揺を眺めている。言葉の羅列におかしなところはない。なのにどうして、私はこの音声に身体を削り取られるような心地がするのだろう。