けものがゆく道のむこう

いいにおいがする方へ かすかな気配をたどる道

落下の感覚

怖い。
「ちゃんとやれば、大丈夫」と君は言うけれど、私は”ちゃんと”できているだろうか。

目を閉じて平均台の上を歩く感覚を思い出す。
一歩前に足場があるとわかっているのに、脳が落下の感覚を押しつけて身体がこわばる。
私の落下が隣の人を巻き込んで一緒に泥沼に沈み込んでいくイメージが、すぐそこにある。

目覚めた瞬間の吐き気と胃痛にひどくみじめな気持ちになる。
ぎりぎりと奥歯を噛みしめて、私はいったい眠りながら何とたたかっているのか。いっそ眠らない方が楽なんじゃないか。
胃だけじゃない。私を覆っている表皮は、身体のいたるところでほころび始めている。
ほころびをふさぐために身体は懸命に黄色い液体を分泌して、滲み出した液体は真っ白いシャツを汚していく。