耳をふさいだまま
「きっとあなたは無難な方の道を選ぶ」
そう彼に言われたとき、それを呪いの予言だとおもった。
だから、呪いを振り切るように耳をふさいで歩き出した。
ひとの話をちゃんと聞かないから、迷子になった。
もうずいぶん長いこと、今どこにいるのかよくわかっていない。
どこでもないどこかを今もさまよっている。
ちゃんと自分にとって好ましい道を選んだだろうか。
ここは、他の誰かではない、私が望んだ場所だろうか。
わからない。
だけど、少なくとも、ここはまったく無難な感じの場所ではない。
なによりも、そのことに安堵する。
ふと思う。彼の予言は、呪いを解くための言葉ではなかったか。
あのとき私はすでに「無難な方の道を選べ」という別の呪いにかかっていて、彼は別の呪いをかけることで、私が解放される方法を提示したのではなかったか。