けものがゆく道のむこう

いいにおいがする方へ かすかな気配をたどる道

形を変えることのできる
それゆえに
ほんとうの形、のことをほのめかされると
形を保つことさえむずかしい
そのような、存在


××××

語られなかったことだけで組み上げられた壁に周囲は覆われていて、語られなかったことを”無かったこと”にしてしまった私の目はそれを見ず、私の手はそれに触れない。
それがたしかな形を持つことは、もうない。
そこにはただ、具象化しなかったなにか、の気配がある。

こうやって無かったことを記述するのは、代償行為だ。
今さらそれを捕まえて、標本にして、認識しようとしている。

壁の気配に意識をやると、からだは萎み、だんだん透明になって、ゆるやかに活動を止めてゆく。
存在が薄まる、あるいは、「私」の密度が低くなる。
見えないものに周波数を合わせていると、自分も見えなくなるのだろうか。

それもいいと思う。消えてしまうなら、それはそれで。
けれど今度は、
消えていくなら、消えていく自分にきちんと触れて、その事象を”在ったこと”にしておきたい。